風技術センターの「住宅間電力融通」は連系中止問題の解決につながるか?

系統連系問題(各電力会社による売電申請・買取の実質的な中止)を受けて、環境設計などの研究およびサービス提供をおこなっている株式会社風技術センターは、独自の電力融通システムの実証実験の結果を発表。

風技術センターは、スマートグリッドの構想の一部(双方向性・インテリジェント化・見える化・自律制御)は同社が先駆的に2002年から提案しているコンセプトだとした上で、よりシンプルに再生可能エネルギーの導入量を増やす方法として同社の独自コンセプト「ECOネットワーク」を提唱しています。

そして今回この技術を使った実証実験の成果が発表された、ということです。
同社の「ECOネットワーク」は、再生可能エネルギーでつくられた電力を各家庭の蓄電池に充電し、また同様な設備を持った複数家庭を繋いで、同社独自の電力制御技術が組み込まれた電力ルーターで電力を融通しあう、というもの。
アイデアとしては単純で、「今更??」というような技術。
同社にしてみると、そのシンプルさが売りなのだとか。

実証実験には成功だが、系統連系問題の解決にはなりえないのでは?

同社はこのコンセプトの有効性を確かめるべく、山形市内に住む職員の住宅を2軒同システムでつなぎ、7月から実証実験を行っていたのだそう。
結果は、系統への逆流もなく、家電や通常の生活に支障をきたすことなく、蓄電池から各家庭への電力融通が成功したとのこと。

同コンセプトは系統を介さず、独自で電線を用意して近隣住宅の蓄電池同士を繋ぐというだけなので、太陽光発電の発電量が増えても系統に負担を与えないとしています。このことから日刊工業新聞

再生可能エネルギーの新規契約の中断問題の解決策の一つになりそうだ

と結論づけています。
もちろん、反論はありませんが、これには多くの「前提」が必要となると考えています。

日本での適用のためには再エネ制度の改革が必須

この実証実験では風技術センターの職員同士の家庭で、電力を融通しあうというものでした。
なので当事者たちの頭には「研究の成果」が第一にあり、「電気代」の問題は無視されています。

しかし当然、家庭でわざわざお金を出して太陽光発電を購入して発電した電力を、他の家庭にただで融通はしたくありませんよね。ましてや今は、売電した方が収入が多くなるのに。
今の制度での「ECOネットワーク」の使い道というと、かなり限定的になってきそうです。
例えばV2H/H2V(電気自動車と家庭)の電力融通。
また、エネルギー設備の導入コスト自体は、2~4割削減できるということなので、二世帯・三世帯が隣り合う住居などで、お金の出どころに関して気の置けない関係の場合は、同システムで電力融通をするのもいいかもしれません。

集団的・社会的な導入に関しては、売電に関する制度が大きく変わらない限り、普及の可能性はかなり低いと考えます。
例えば売電単価が電気代よりも大幅に低くなってしまい、このシステムの利用者間で売電単価以上の価格での電力の融通が可能なのであれば、このシステムの利用者はメリットをより感じられるかと思います。

パナソニックが神奈川県の藤沢でプロデュースしたエコタウンのような小規模な社会でまずは取組みを行ってみるのもいいかもしれません。

同社のこのシステムに関するアピールの中には、「無電化地域やこれから電力系統を整備していかなければいけない地域にとっての大規模なソリューションとなりうる」という内容も含まれています。
政府による技術輸出支援などで採択してもらえるといいですね。

参考

スマートグリッド、マイクログリッド、そしてこの「ECOネットワーク」、今後も各研究施設などから同様に電力問題の解決につながるコンセプトが出てくると予想しますが、はじめに大きな突破口をつくるのはどの技術でしょうか。もしくはそれぞれが少しずつ役割を果たした、より複雑・高度なソリューションが将来の日本を形作ることになるのでしょうか。

個人的には地産池消(自分の家で作って、自分の家で消費)といった一番シンプルなアイデアがしっくりきます。
バックアップとして系統があればいいのかな、とか。

北海道電力が系統連系申込みの回答保留

2014年9月30日付で発表されたほくでんからの系統連系保留に関するプレスリリースです。

各電力会社の系統連系状況はこちらのページで速報をご案内しています。


北海道電力では、管轄地域の最小電力需要である約270万kWを上回る約300万kWの地域内の設備が平成26年5月末時点で国によって認定されたとされています。

500kW以上は条件付きで受け入れ可能

この多くを占めるのが500kW以上の設備で、30日を超えて出力抑制を要請した場合でも、補償をしないことを前提に受け入れを進めるとしています。
言い換えれば、500kW以上の設備は出力抑制を(おそらく年に)30日以上する可能性が高いということ。

10kW以上500kW未満は回答保留

設備認定容量で80万kWに達している500kW未満の全量買い取り設備は、10月1日以降、当面(数ヶ月)の検討結果の回答保留をします。

いつの時点でにどういう結果が返ってくるのか(完全拒否、抑制などありの場合許可、蓄電池併設での許可などが考えられます)は、未知数です。完全拒否はないことを願いたいものです。

10kW未満は買取続行

家庭での自家消費を伴う(余剰の)10kW未満の設備については、「回答の保留は行わず、従来どおりの受付を継続」としています。

各電力会社の系統連系状況速報

東北電力が再生可能エネルギーの高圧連系の回答を保留と発表

9月30日付けの発表で、東北電力は系統への50kW以上(高圧・特別高圧)の再生可能エネルギー発電設備の連系申込みについて、回答を保留することを明らかにしました。

平成26年5月末時点で国全体の設備容量が7148万kW(71.48GW)、うち太陽光発電は6800万kW(68GW)となっており、その中でも東北電力管轄内の太陽光発電は1000万kW(10GW)超となっているということ。

風力発電の受付可能容量として確保している200万kWを含めた1200万kW(12GW)の容量は管轄の需要量を上回る規模であり、同社の発電設備の出力調整を行ったとしても供給に支障が出ることになるという。

これに対して東北電力は、連系申請の回答を一時保留という対処で対応するとしています。
また、「西仙台変電所での大型蓄電池システム実証事業」や「風力の導入拡大に向けた東京電力との連系線を活用した実証試験」の結果を見ながら容量を増やしたいとも考えているよう。

低圧連系となる50kW未満は、現時点では通常通り連系可能ということ。時間も問題という気もしますが、ねらい目といえばねらい目ですね。

参考

70年間使えるリチウムイオン蓄電池をシャープが開発

蓄電池の使用回数(寿命)は、現時点で23,500サイクルで83%(NEC)の容量維持という研究段階の成果などもありますが、今回シャープ京都大学の田中功教授らがNECの記録をわずかに上回る、25,000回の充放電が可能なリチウムイオン蓄電池を開発したと発表。

風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーと組み合わせて使うための大型蓄電池としての実用化を計画しているのだそうです。

沖縄や九州の離島での系統連系の申請保留問題(系統連系問題で関連記事はまとめてあります)にもあるように既に太陽光発電を中心に系統の限界が見えてきている現状で、高性能の大型蓄電池の実用化が心待ちにされている状況と考えられます。

実験では8cm角の電池を試作し、最新のシミュレーション技術によって正極に使われる素材(鉄、ケイ素など)の組み合わせの最適化を行ったことなどが今回の成果につながったのだとか。
研究の詳細は英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに掲載されたよう。

参考

沖縄電力圏では住宅用も接続保留、九州電力圏では6離島の事業用で接続保留

沖縄電力圏で、産業用の太陽光発電の系統連系が保留になったまま具体的な解決策が出ていない状況で、宮古島市長らは経済産業省資源エネルギー庁に助けを求めにが東京まで出向いてきたそうです。

さらに状況は悪化して今度は住宅用の太陽光発電に対しても申請を保留にしているのだそう。

設置したくてもできない一般家庭の消費者はもちろん、沖縄県内の太陽光発電業者にも事業の支障をきたしているよう。「沖電は説明責任果たせ!」と、関係者のいら立ちを代弁するような社説も見られるものの、沖縄電力だってどうしようもできない状況なのかもしれません。


対する九州電力

圏内の6つの離島で1年程度新規契約を中止、「既に契約している1920件には補償金を支払って一部は送電線への接続を断ることも想定」しているというのは九州電力。
沖縄電力に比べて具体策を出している九電。沖縄電力からは微塵も感じられなかった余裕をこちらからは感じられます。

それもそのはず、九州電力は完全子会社のキューデンエコソルでメガソーラー事業をちゃっかり行っているのですから。

九州電力の子会社が、グループ会社に電力を売って、その差額は消費者に払わせるのってなんだかおかしくない???
と考え始めるとモヤモヤしてきそうなものでしょうが、ビジネスチャンスを逃さず、お金がいるときにはちゃんと(補償金しかり)使える状況にしておく事は健全な企業活動のためには必要と考えるとちょっとはスッキリするかもしれません。

参考

沖縄の系統連系保留の課題に、いまだ解決策無し

宮古市で、系統への負担を理由に新規の太陽光発電事業の申請を見送っている問題について、17日に行われた宮古島市議会の定例会に沖縄電力の古堅宗和企画政策部長が出席し、一般質問に答えました。

質問に答えたとは言いながら現状では具体的な解決策が出ているわけではなく、事業者の人たちは心にもやもやを抱えたままだろうと予想しています。

同様の問題を抱えるのは宮古島市だけでなく、石垣市や久米島町でも接続が保留されているということ。

宮古島市では、東芝などが参画している「宮古島市全島エネルギーマネジメントシステム(EMS)実証実験(すまエコプロジェクト)」を昨年10月から行っていますが、市としてはこのシステムを活用した電力需要調整が導入量の拡大に寄与できないかどうか、といった検討も進めているということで、ちょっとした期待を持てる発表内容でした。

参考

沖縄県宮古島での太陽光発電事業は足止め、解決策はまだ出ず

沖縄電力が宮古島系統で新規接続を保留したというニュースを以前お届けしました。その後沖縄電力は、宮古島で太陽光発電事業を行う予定の企業70社の代表に対し、説明会を開いたということ。

現在190件の新規契約を保留している状態ということですが、受け入れ可能量に対してすでに接続希望申込量が上回っている状態であり、説明会ではこれに対する沖縄電力の見解が明らかにされたようです。

今後の方針としては現時点で契約、接続が完了していない事業者に、出力抑制と蓄電池の設置を提案。
参加者の中には、出力抑制をした場合の売電の補てんなどは行われるのか、と聞いた人がいたそうですが、そんなもの、行われるはずないですよね。沖縄電力も補てんについては行わないと断言しています。
売電の仕組みをわかっていれば、こうした質問以外にもっと聞くべきことがあったと気付いたかもしれません。

事業者の振り落としでより地域に貢献度の高い事業者が出てくることを期待

消費者の願いとしては、売電収入だけを目的にした事業者をここでいっきにふるい落として、地域のスマートグリッド、エコ社会化への貢献をより重要視してくれる事業者が出てきてくれると期待したいところ。

例えばコンビニ業界では、10kW以上を設置しながらもあえて余剰売電を行う方針が主流です。電力を多く消費するイメージの強いコンビニだからこそ、より環境保全に貢献できる店舗の開発を進める企業を、個人的には評価したい、と考えます。

また太陽光発電による発電量を売電せず、地域内の施設で融通しあう三井不動産のスマートシティのような例もあります。

こうした企業の実例は自社内の開発技術力や資金力を生かした、本当に稀な事例なのかもしれませんが、固定価格買い取り制度をフル活用しなくても採算の合う事業にする方法があることを示しています。
どんな企業にでもできることではないのかもしれませんが、この機会に発電事業の環境貢献性、地域への貢献性などを振り返れば、自治体などからの協力・理解も高まりそうな気もします。

蓄電池の導入実験はどうなった??自治体や政府からの支援と沖電の対策にも期待

宮古島では「エコアイランド宮古島宣言」を掲げているといいますが、自治体や政府からの支援の有無も、この問題の解決には不可欠なのではないでしょうか。

宮古島は経済産業省資源エネルギー庁の「離島独立型系統新エネルギー導入実証事業」でマイクログリッドシステム構築の実証実験の場に選ばれています

宮古島系統の最大需要にあたる約50,000kWの8%、4,000kWの太陽光発電を設置し、同容量のNaS電池(出力4,000kW・蓄電容量28,800kWh)で出力の安定化を図るという内容の実証実験。
平成21年度に「離島独立型系統新エネルギー導入実証事業補助金」を受けて始まった実証実験は今年3月で期間満了し、

太陽光発電が大量に導入された場合には電力系統の安定運用が維持できるよう対策し、低炭素社会の実現に向けて引き続き取り組んでいきます

沖縄電力による展望も発表されていますが、説明会においてはこの展望による具体的な対策については言及されなかったよう。

事業者・電力会社・政策決定者の歩み寄りで問題の早急な解決を図り、離島での高度なスマートグリッド構築の実現が見られることを期待しています。

参考

沖縄電力が宮古島の太陽光発電の申請を保留

沖縄電力が宮古島市の太陽光発電20件の新規接続を保留していると発表されました。

宮古では、EVを活用した実証実験や、宮古島市来間島で100%電力の地産地消を目指したりと、島のスマートエネルギー化に向けた様々な試みがなされていますが、こうした動きが足止めを食らう可能性もあります。

宮古島市圏内では、沖縄電力のメガソーラー以外に、既に1万kW分(10MW)の太陽光発電に対して連系を完了させており、さらに7700kW(7.7MW)分の連系許可分に対しては買電を行うとしていますが、通常電力の送電に支障を来す可能性があるという理由で新規申し込みのあった20件については接続を保留にしているということ。再生可能エネルギー固定買い取り制度施行後、接続保留になったケースは全国でも初の事例なのだとか。国や関係機関と調整し、接続限界量の調査分析結果が出るまでは新規の接続契約を保留したい考えだというこt。

「エコアイランド宮古島宣言」を掲げる宮古島の下地市長は沖縄電力に対して、十分な調査と市民への説明、その後は引き続きの太陽光発電の導入継続のための対策検討を含めた要請書を提出しました。

やはり系統の小さな島で太陽光発電などを活用した電力融通は難しいのでしょうが、宮古島でのスマートエネルギー化が、やがては日本列島の規模まで発展しうる技術の開発のきっかけにもなるかもしれません。

今後の展開に注目いたいですね。

参考

九州の3島に大型蓄電池設置、再生可能エネルギーの出力変動に対応

再生可能エネルギーの出力変動に対応するため、九州電力は管轄内の3つの離に大型の蓄電池を設置し、電力系統の安定に繋げるための実証実験を始めます。

環境省の「再生可能エネルギー導入のための蓄電池制御等実証モデル事業」モデル事業として採択されたこの事業は、長崎県の対馬、鹿児島県の種子島と奄美大島の3島にそれぞれ、出力2~3.5MWの大型リチウムイオン蓄電システムを設置。
最も大きい出力3.5MWのもので204kWhのリチウムイオン電池ユニットを7つ使ったユニットとなっており、合計1430kWh(1.43MWh)の容量で9MW程度の太陽光、風力発電の出力変動に対応できる見込みだそう。
2016年度までの3年間の実証実験を通じて、蓄電池の最適な制御方法の確立を目指します。

北海道沖縄・来間島といった地域でも、すでに蓄電池を使って再生可能エネルギーの出力変動抑制の試みは始まっています。

太陽光パネルでかつては市場を先導した日本ですが、今はパネルといえば、中国製の低価格製品が市場の大半を占めています。
次のステップとして蓄電池などスマートグリッドの技術でリードできるようになるといいですね。

参考